歩行器・車椅子は買うのとレンタル、どっちが得?介護保険レンタルの対象と費用相場
「毎月払うレンタルは損では?」と迷う、離れて暮らす子世代へ
親に歩行器や車椅子が必要になったとき、多くの人が最初に迷うのが「買うのか、借りるのか」です。ネット通販を見れば数万円で買えるものもあり、「毎月レンタル料を払い続けるのは損なのでは?」と身構えるのも無理はありません。ですが介護保険の世界では、そもそも品目ごとに「レンタルできるもの」と「購入するもの」が制度で分けられています。ここを知らずに全額自費で買ってしまうと、かえって高くつくこともあります。この記事では、レンタルと購入の違い・費用の目安・どちらが向いているかを、専門用語をかみくだいて整理します。
先に結論
- 歩行器・車椅子・介護ベッドはレンタル(貸与)、シャワーチェア・ポータブルトイレなど肌に触れる入浴・排泄用品は購入(特定福祉用具販売)と、介護保険で品目が分けられています。
- レンタルは毎月のレンタル料の1〜3割負担。歩行器なら月100〜500円程度、標準的な車椅子でも月500〜1,500円程度(1割の場合)が目安です。
- 購入は1年で10万円までが介護保険の対象。いったん全額払い、あとで7〜9割が戻る仕組みです。
- 状態が変わる・一時的に使う=レンタル有利(交換や返却ができる)。長く使う・衛生面で人と共用しにくい=購入向き。
- 要支援1〜要介護1の「軽度者」は車椅子が原則対象外(例外あり)。一方、歩行器・歩行補助つえは軽度でもレンタルできます。
- まず何より、担当のケアマネジャー(いなければ地域包括支援センター)に相談するのが近道です。
レンタルと購入、何が違う?
介護保険で使える福祉用具は、大きく2つの仕組みに分かれます。名前は少しかたいですが、意味はシンプルです。
- 福祉用具貸与(レンタル)…車椅子や歩行器、介護ベッドなど、繰り返し使え、返却すれば次の人も使えるもの。毎月レンタル料を払います。
- 特定福祉用具販売(購入)…シャワーチェアやポータブルトイレなど、肌に直接触れたり、入浴・排泄で使ったりして、他人が再利用しにくいもの。買い取ります。
なぜ分かれているのかというと、厚生労働省は購入対象を「直接肌に触れることが予測されるもので、他の人が使用したものを再利用することに抵抗のある用品」と説明しています。つまり衛生面でレンタルになじまないものは「購入」、それ以外の繰り返し使える大きめの道具は「レンタル」という考え方です。
ざっくりした切り分けはこうなります。
- レンタルになるもの…車椅子、歩行器、介護ベッド(特殊寝台)、手すり(工事不要のもの)、スロープ(工事不要のもの)、床ずれ防止マット など
- 購入になるもの…シャワーチェア・入浴台などの入浴補助用具、ポータブルトイレ・補高便座などの腰掛便座、簡易浴槽 など
「歩行器はレンタルなのに、シャワーチェアは買い取り」——この線引きは自分では選べない、と覚えておくと迷いません。
費用の目安:毎月いくら?
「毎月払うレンタルは損では?」という不安の答えは、実際の月額を知ると印象が変わります。介護保険が使えれば、支払うのはレンタル料の1割(所得により2〜3割)だけだからです。
品目ごとの自己負担のおおよそのイメージです(1割負担の場合。地域や商品で幅があります)。
- 歩行器…商品や事業者で幅がありますが、月数百円程度(機種により100〜500円ほど)が目安です。
- 標準的な車椅子(自走式・介助式)…全額なら月5,000〜8,000円ほどのところ、1割負担で月500〜1,500円程度が目安。
- 介護ベッド+付属品+床ずれ防止マットのセット…全額で月1万円前後になることが多く、1割なら月1,000円ほど、3割でも月3,000円ほど。
一方、購入(特定福祉用具販売)は、介護保険の対象になるのは毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間で合計10万円まで。この範囲なら自己負担は原則1割(所得により2〜3割)です。支払いは、いったん全額を自分で払い、あとから市区町村に申請して7〜9割が戻ってくる「償還払い」が基本です(自治体によっては最初から1割だけ払う方式もあります)。
たとえばシャワーチェアを2万円で買った場合、1割負担なら実質2,000円ほど、という計算になります。なお、要介護認定を受けていない場合や介護保険の対象外品目は全額自費です。
どっちが得か:借りる/買うの分かれ道
制度で品目が分かれているとはいえ、2024年度からは一部の品目でレンタルと購入を選べる「選択制」も始まりました(後述)。そこで、選べる場合や自費で考える場合の「損得の軸」を整理します。
レンタルが向いているケース
- 親の体の状態がこれから変わりそう(退院直後・リハビリ中など)。合わなくなったら別の機種に交換できるのはレンタルだけの強みです。
- 一時的に使う(骨折の回復期など)。使い終わったら返せば費用が止まります。
- 介護ベッドや車椅子など高額で、保管やメンテナンス・消毒が大変なもの。点検や修理は貸与事業者が担います。
購入が向いているケース
- 長く使い続ける見込みで、単価が安いもの。毎月払い続けるより買い切りのほうが総額を抑えられることがあります。
- 入浴・排泄用品など衛生上、人と共用しにくいもの(そもそも制度上も購入対象)。
目安として、国が示す選択制対象品目の平均利用月数は、固定用スロープ13.2か月、歩行器11.0か月、単点杖14.6か月とされています。長く使うほど「買った方が総額は安い」方向に傾きますが、途中で状態が変わって使わなくなるリスクも考え合わせる必要があります。どちらが得かは「あと何か月くらい、その形のまま使いそうか」で変わる、と考えると判断しやすくなります。
| 観点 | レンタル(貸与)が向く | 購入(特定福祉用具販売)が向く |
|---|---|---|
| 代表的な品目 | 車椅子・歩行器・介護ベッド・手すり・スロープ | シャワーチェア等の入浴補助用具・ポータブルトイレ・簡易浴槽 |
| 体の状態 | 変わりやすい/回復途上(交換できる) | 安定していて長く同じものを使う |
| 使う期間 | 一時的・見通しが立たない | 長期に継続する見込み |
| 衛生・共用 | 肌に触れにくく再利用しやすい | 肌に触れる/入浴・排泄で共用しにくい |
| 費用イメージ | 毎月レンタル料の1〜3割(点検・修理込み) | 1年10万円まで対象・原則1割(償還払い) |
| メンテ・交換 | 事業者が点検/修理、合わなければ交換 | 自分で管理・買い替え |
※料金や対象は地域・商品・要介護度で異なります。固定用スロープ・歩行器・単点杖・多点杖は2024年度から「選択制」で、レンタルと購入のどちらかを選びます。最終的な選定は担当のケアマネジャーにご相談ください。
見落としやすい注意点
安い杖なら買った方が早い?——ただし介護保険の対象外に注意
ドラッグストア等で数千円で売っている一般的なT字型の一本杖(ステッキ)は、介護保険の貸与・購入いずれの対象にもなりません。「安い杖くらい自費で買った方が早い」というのは実はその通りで、普通の一本杖は自費で買うのが基本です。介護保険でレンタルできる「歩行補助つえ」は、松葉づえ・多点杖・ロフストランドクラッチなど、より支持力の高いタイプを指します。
軽度者(要支援1〜要介護1)は車椅子が原則対象外
車椅子のレンタルは原則として要介護2以上が対象です。要支援1〜2・要介護1の「軽度者」は原則対象外ですが、「日常生活の移動の支援が特に必要」と主治医の医学的所見やサービス担当者会議で認められれば、例外的にレンタルできる場合があります。一方、歩行器・歩行補助つえ・手すり・スロープは、軽度でも通常どおりレンタル対象です。ここは混同しやすいので、親の要介護度と使いたい品目をセットでケアマネジャーに確認しましょう。
ネット通販で先に買うと後戻りできない
介護保険を使いたい購入品(シャワーチェア等)は、都道府県の指定を受けた事業者から買わないと保険の対象になりません。良かれと思って先にネットで買ってしまうと、あとから保険給付を受けられないことがあります。買う前にケアマネジャーに相談が鉄則です。
介護保険の対象品目まとめ
介護保険の福祉用具は「貸与(レンタル)」と「特定福祉用具販売(購入)」に分かれます。制度上の対象品目を一覧にまとめます(2026年時点)。実際に使えるかは要介護度や本人の状態で変わるため、必ずケアマネジャーや自治体窓口で確認してください。
福祉用具貸与(レンタル)の対象13品目
- 車椅子/車椅子付属品
- 特殊寝台(介護ベッド)/特殊寝台付属品
- 床ずれ防止用具
- 体位変換器
- 手すり(工事をともなわないもの)
- スロープ(工事をともなわないもの)
- 歩行器
- 歩行補助つえ(松葉づえ・多点杖など)
- 認知症老人徘徊感知機器
- 移動用リフト(つり具の部分を除く)
- 自動排泄処理装置
特定福祉用具販売(購入)の対象品目
- 腰掛便座(ポータブルトイレ・補高便座など)
- 入浴補助用具(シャワーチェア・浴槽用手すり・入浴台など)
- 簡易浴槽
- 移動用リフトのつり具の部分
- 自動排泄処理装置の交換可能部品
購入は1年で合計10万円までが保険対象で、自己負担は原則1割(所得により2〜3割)。全額を払ったのち申請で7〜9割が戻る「償還払い」が基本です。
軽度者(要支援1・2、要介護1)の扱い
軽度者は、車椅子・車椅子付属品・特殊寝台・特殊寝台付属品・床ずれ防止用具・体位変換器・認知症老人徘徊感知機器・移動用リフトが原則としてレンタル対象外です(自動排泄処理装置も原則要介護4・5向け)。一方、手すり・スロープ・歩行器・歩行補助つえは軽度でも対象になります。原則対象外の品目でも、主治医の医学的所見やサービス担当者会議での協議を踏まえて特に必要と認められれば、例外的に給付される場合があります。
2024年度からの「選択制」
令和6年(2024年)4月から、固定用スロープ・歩行器(歩行車を除く)・単点杖(松葉づえを除く)・多点杖の4品目は、レンタルと購入のどちらかを利用者が選べる「選択制」の対象になりました。長く使う見込みなら購入、状態が変わりそうならレンタル、と選べます。
手続きはどうする?
やることは多くありません。基本はケアマネジャーに相談すれば、対象品目の選定から事業者の手配まで進めてくれます。
- 親が要介護・要支援の認定を受けているか確認する(まだなら市区町村の窓口や地域包括支援センターで申請)。
- 担当のケアマネジャー(居宅介護支援事業所)に相談する。困りごと(歩行が不安・入浴が危ない等)を具体的に伝えます。
- ケアマネジャーや福祉用具の専門相談員が本人の状態に合う品目を提案。レンタルか購入か、選択制対象なら両方の見積もりも出してもらえます。
- レンタルはケアプランに位置づけて契約、購入は指定事業者で購入し、必要に応じて市区町村へ支給申請します。
担当のケアマネジャーがまだ決まっていない場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターが最初の相談先になります。離れて暮らしていても、電話で状況を伝えれば動いてくれます。まだ認定を受けていない場合の進め方は、親の介護のはじめ方(介護保険の申請)にまとめています。
よくある質問
歩行器や車椅子は、自分で買ってはいけないのですか?
買ってはいけないわけではありません。ただし、これらは介護保険では「レンタル(貸与)」の対象品目で、購入しても介護保険の補助は出ません(全額自費)。介護保険を使うなら、ケアマネジャーを通じてレンタルするのが基本です。まずは担当のケアマネジャーに相談しましょう。
毎月レンタル料を払い続けるのは損ではないですか?
介護保険が使えれば、支払うのはレンタル料の1〜3割です。歩行器なら月100〜500円程度、標準的な車椅子でも1割負担で月500〜1,500円程度が目安。点検・修理・交換も込みなので、状態が変わりやすい時期や高額品はレンタルのほうが安心なことが多いです。長く同じ形のまま使うなら、選択制対象品では購入も選べます。
要支援や要介護1でも車椅子はレンタルできますか?
車椅子は原則として要介護2以上が対象で、軽度者(要支援1〜要介護1)は原則対象外です。ただし、歩行が難しいなど「移動の支援が特に必要」と主治医やサービス担当者会議で認められれば、例外的に借りられる場合があります。歩行器や歩行補助つえは、軽度でも通常どおりレンタルできます。
シャワーチェアやポータブルトイレはレンタルできますか?
これらは肌に触れる・排泄や入浴で使う用品のため、介護保険では「購入(特定福祉用具販売)」の対象で、レンタルはできません。1年で10万円までが保険対象で、自己負担は原則1割です。都道府県の指定を受けた事業者から買う必要があるため、先にネットで買わず、ケアマネジャーに相談してから購入しましょう。
安い一本杖なら買った方が早いですか?
一般的なT字型の一本杖(ステッキ)は、そもそも介護保険の貸与・購入いずれの対象にもなりません。数千円で買えるものが多いので、自費で買うのが基本です。介護保険でレンタルできる「歩行補助つえ」は、松葉づえや多点杖など支持力の高いタイプを指します。